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312号室は、3階の一番奥にある個室だ。
大部屋からは少し離れた場所にあり、普段は容態の重い患者が収容されるため、近くには緊急搬送用のエレベーターが設置されている。
だから元々人が寄り付かない場所ではあるのだが、その時も312号室は不気味に静まり返っていた。
しかし、静雄は構わずに扉を開け放つ。

部屋の中は、真っ暗だった。
静雄は急いでベッドに駆け寄ったが、布団の中には誰もいない。
ベッドの横には、まだ容量の十分に残っている点滴がぶら下がっていた。
きっと無理やり引き抜かれたのだろう。点滴のチューブが床に垂れ下がり、そこから漏れ出た液が床に水溜りを作っている。

「臨也! いるなら返事しろ!!」

静雄は大声を張り上げた。だが、返答はない。
試しに布団を触ってみると、まだ微かに温もりが残っていた。
これならば、まだ臨也がいなくなってから然程時間は経っていないだろう。

「くそっ! どこだ」

静雄は、部屋の中を見渡す。すると、床に小さな染みのようなものがあることに気づいた。
目をこらすと、それは血だということが分かった。しかもまだ乾ききっていない。
きっと点滴が引き抜かれたときに出血したのだろう。
血の染みは、点々とどこかへと続いている。

静雄は、染みの後を追いかけた。
すると、それは備え付けのバスルームへと続いていく。
なぜ今まで気づかなかったのだろうか。耳をすませば、風呂場からは微かに水音がしている。

「…臨也?」

風呂場のドアを開け放つと、もわっとした熱気が静雄の体を包んだ。
中が暗いため、静雄は手探りで電気をつける。
そして、照らし出された光景に静雄は思わず息をのんだ。

「臨也!」

臨也は突っ伏した状態で、湯のたまったバスタブの中に腕を浸していた。
臨也の横には血のついたナイフが転がっており、バスタブの中の湯は真っ赤に染まっている。
うつ伏せになっているため臨也の表情は見えないが、ぐったりとしているその様子からは生気というものが感じられない。

「おい、しっかりしろ!!」

静雄は、急いで臨也を湯から引き上げた。
力を失った臨也の腕がだらりと床へと垂れ下がる。その手首には一文字に切られた傷跡があり、まだ出血し続けていた。
静雄は、脱衣所からタオルを持ってくると、傷口の少し上を固く締め上げる。
ともかくこれだけの出血をしているのだ。早く血を止めなければ、臨也の命が危ない。

「くそっ、目を覚ませ!」

静雄は、力いっぱい臨也を揺さぶる。
すると、臨也の瞼が小さく震えた。稀有な輝きを持ったその瞳がゆっくりと開いていく。
こんな時にもかかわらず、静雄はその瞳の美しさに息を飲んだ。

「臨也、俺が分かるか…?」

静雄が尋ねると、臨也がぼんやりとこちらを見つめた。
その瞳はまだどこかふらふらとしていて、焦点が定まらない。
そんな臨也の視線を誘導するように、静雄は臨也の頬に手を置く。

瞬間、臨也の瞳が大きく見開かれた。

「…あぁ…ぁ…」

はじめは、かすれたとても小さい声だった。
静雄は、臨也が何かを言いたいのかと思い、言葉を聞き取ろうと耳を近づける。
するとその声は次第に大きくなり、やがて身を引き裂くような悲鳴となった。

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁ…!!」
「おい、どうした!」

悲鳴をあげながら、臨也の体は痙攣したように震えている。
静雄は震えをとめようと、必死にその細い体を抱きしめた。それでも臨也の体の震えは止まらない。
そればかりか、震えはどんどん大きくなっていく。

「臨也、落ち着け! 大丈夫だから」
「もう嫌だ! 助けて、助けて!!」
「大丈夫だ。ここには手前を傷つけるヤツはいない」
「怖いよ助けてよ……シズちゃん…」
「臨也…」

小さな呟きを最後に、臨也は再び意識を失った。
力の抜けた体を、静雄は慎重に床へと横たえる。

『シズちゃん』

縋るようにして呟かれた己の名に、静雄の胸は締め付けられた。
ひょっとして、臨也はずっと自分に対して助けを求めていたのだろうか。

以前の臨也なら、静雄に助けを求めることなどは絶対にしなかった。
しかし、記憶を失ってからどこか子供のようにあどけなくなった臨也。
頼る知識も情報もない中で、今の臨也が唯一頼ることのできる存在は静雄だけなのだ。

『シズちゃんと暮らしたらきっと楽しいだろうね』

そう言って、朗らかに笑っていた臨也の顔を思い出す。
静雄は、臨也の頬をゆっくりと撫でた。
血の気を失った臨也の頬には、くっきりと涙の跡が残っている。

「臨也、手前は俺でいいのか…?」

小さく問いかけるが、勿論答えは返ってこない。
静雄は、まだ涙の残る臨也の目尻にそっと口付けた。

「もし手前が選ぶなら、俺はお前を守る」


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