お読み頂き、ありがとうございました。
ピンチに陥った臨也を格好良く助けに来る静雄っていうのを書きたかったのに、なぜかこんな話になってしまいました。
何でだろう。臨也が強すぎる…!
ちなみに、最初に書いていた没シーンはこんな感じでした。
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「それじゃあ第2問。その銃に弾はあと何発残っているでしょうか」
言葉を終えると同時に臨也は、ナイフで男の手を切りつけた。
男はうめき声をあげると、銃を取り落とす。その隙に臨也は男の腹に蹴りを入れ、男の腕から抜け出た。
「残念、時間切れ。答えは0発です。自分が撃った弾の数くらい把握しておきましょう」
「何しやがるんだてめぇ!」
受付で現金を袋詰めしていた男が、銃を拾って構える。
その間に、腕を切りつけられた男が、仲間に銃弾を渡そうとポケットを探った。
「うん、連携は悪くないね。それでは特別にサービス問題。これなーんだ?」
臨也はそんな犯人たちの様子を笑いながら見つめると、左手をコートのポケットから出した。
左手にはジャラジャラと音の鳴る皮袋が握られている。
犯人たちは、臨也の左手に握られているものを見て一気に青ざめる。
「お前、いつの間にそれをっ」
「こんな大事なものは尻ポケットなんかに入れといちゃ駄目だよ。どっかの都市伝説さんみたいに落としちゃうかもしれないから。っていうか銃弾なんて入れてたら、椅子に座りにくいんじゃない?」
「それを返せ!」
「嫌だね。この弾、粟楠会から回収を頼まれてるから。あんたら銃を拾ったからって、安易に強盗なんてするもんじゃないよ」
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これって臨也が一人で、銀行強盗倒しちゃうじゃん。静雄が出てくる暇ないじゃん。ってことで急遽没に。
うーん。果たしてこの話をシズイザだと言い張っていいものだろうか。
いや、シズイザ100パーセントのつもりで書いたんですけどね!
「ピンチに陥った臨也を格好良く助けに来る静雄」っていうのは、自分的にかなりの萌えポイントなので、いつかリベンジしたいです。
一人の男が普通に店内に入って来た。
背格好も、(かろうじて)服装も、まぁ普通の男と形容しても問題ないだろう。
ただその男が普通でないのは、手に郵便ポストを握っていることだった。
「やっと見つけたぜ。いーざーやーくーん」
地を這うような声とはこのことを言うのであろう。不機嫌そうに吐き出される声は、地獄の扉でも開くのではないかという程に恐ろしかった。――特に静雄の力を知っているセルティにとっては。
店内にいた客・および犯人は、細身の男が片手で郵便ポストを持ち上げているというあり得ない状況に、あっけにとられている。
「げ、シズちゃん」
「お前、ちょこまかと逃げんじゃねぇよ。探すのにどれだけ時間がかかったと思ってんだよ。この糞ノミ虫がよぉ」
静雄は、手に持っていた郵便ポストを乱暴に床に置いた。途端に、ズシンと重い衝撃音がする。
よくよく見ると、ポストの下にはアスファルトの一部がついたままだった。ちなみにポストの裏には引きちぎられたと思われる鉄の鎖が悲しげにぶらさがっている。
「お前! 勝手に入ってくるな!!」
いち早く我に返った入り口の見張り番が、静雄の肩に手をかけた。
途端に静雄のこめかみに青筋が浮かぶ。
「ああ? 俺は今あそこにいるノミ虫と話をしてるんだ。勝手に割り込んでくるんじゃねーよ!」
静雄は、振り向きざまに男のあごへとアッパーカットを繰り出す。
見張り番は一瞬宙へと舞うと、ものすごい音を立てて地面にたたき付けられた。そのまま気絶したようで、男はうめき声一つもらさない。しかし、確実にあごの骨は砕けたであろう。顔の形が明らかに変わっている。
「何だこいつ。クソ臨也の仲間か?」
「いや、状況をよく見ようよ、シズちゃん。無駄に頑丈な体だけが取り柄だったのに、ついに目が悪くなっちゃったの? あ、違った。目じゃなくて頭が悪いのか」
臨也は銃を突きつけられた状態のまま、これ見よがしに大きなため息をついた。
その様子は余裕たっぷりで、とても命の危険にさらされている人間のようには見えない。まぁ、いつもどおりの臨也だ。
そんな臨也の態度が、静雄の怒りを余計に煽る。
「臨也よぉ。てめーは、よっぽど死にたいらしいなぁ。そんなに死に急いでどうするんだ? どうせ死んでも地獄に行くだけだぞぉ」
「やだなぁ、シズちゃん。死後の世界なんて信じてるの? そんなものどうせあるわけないのに」
「ごちゃごちゃうるせーよ。いいからお前は死ね!」
そういうと、静雄は横に置いていた郵便ポストを臨也に向かって投げつけた。
しかし、ポストは狙いを少し外れて臨也の隣へと落ちる。そこはちょうど、犯人の一人が金をつめていた場所だった。
状況をつかみきれず呆けていた犯人は、飛んでくるポストを避けきることができない。
「うぐぁぁっ!!」
足を挟まれた犯人が、蛙のつぶれたような悲鳴を上げる。
その様子を見て、セルティは天を仰いだ。
――気の毒に。
本来、同情する余地なんてないはずの強盗たちだが、上からポストが飛んでくるという非現実的な出来事に遭遇してしまった不運には、思わず同情してしまう。
あの男たちだって、金をとったらすぐに逃走するつもりだったのだろう。それが臨也というタチの悪い男に絡まれ、挙句の果てには怒った静雄のとばっちりまで受けている。
これを不運であると言わずして、一体何と言えばいいのか。
臨也に銃を突きつけていた男は、静雄の圧倒的な力を見て、怖くなったのだろう。
おびえた様にじりじりと後ずさっていた。ちなみに銃を持つ手も小刻みに震えている。
「な…何だお前! こっちに来んじゃねぇ!!」
「あ?」
「この銃が見えねぇのか! これ以上近寄ると、こいつの頭をぶっ飛ばすぞ!!」
そう言って、男はぐりぐりと銃を臨也の頭へと押し付ける。
その様を見て、静雄は首を傾げた。
「臨也、お前ひょっとして人質になってんのか?」
「この状況でそれ以外の何に見えるっていうのかな? シズちゃんは」
「おめーは、人質になんてなるタマじゃねーだろうが。まぁ、でもこいつが人質だっていうなら丁度いいか」
「…あ?」
男は静雄の顔を見て怯み、また一歩後ずさった。
静雄の口元には、笑みが浮かんでいたのだ。それも至極嬉しそうに。
「そこのあんたよぉ。そのノミ虫が逃げ回らないように、しっかりと捕まえていろよな」
言い終わるや否や、静雄は臨也目掛けて一直線に突っ込んでくる。
静雄の予想外の動きに、銃を持った男は硬直した。
その隙に、臨也は男の腕から抜け出る。その身のこなしは、軽やかにして優雅だ。そして、そのまま男の後ろ側にまわり込むと、犯人の男の体を盾にした。
「くそ! ちょこまかと逃げんじゃねーよ。このノミ虫がっ!」
「やだね。逃げなかったら死んじゃうじゃないか」
「てめーはさっさと死ね!」
「シズちゃん、日本人の平均寿命を知らないのかい? 俺はあと50年は生きるつもりだよ」
静雄は、会話をしながらも物凄いスピードで拳を繰り出す。それを臨也は、銀行強盗の体を盾にしつつ紙一重で避ける。
臨也が静雄の攻撃を避けるたびに、銀行強盗の体は右へ左へと大きく揺さぶられ、その都度、男は「ひっ」と声にならない悲鳴を上げていた。
――あれ、助けるべきかなぁ。
静雄の攻撃にさらされて、正気を保っていられる人間なんて数えるほどしかいない。だから、盾にされた男の恐怖はすさまじいものだろう。現に、男はもう涙目になっている。
しかし、そんな男の様子になど構わず、静雄と臨也は器用に会話と喧嘩を同時進行していた。
「シズちゃん、そろそろ逃げたほうがいいんじゃない? 本当に警察が来ちゃうよ」
「警察だぁ? 俺は何もしてねーぞ。さては臨也、てめーまた罠にはめやがったな!」
「この状況で何もしていないなんてよく言えるよね。十分に器物損壊罪と傷害罪は成立するよ。大体、銀行の中に郵便ポストがあるってどんだけシュールな光景なの」
「それはてめーが銀行なんかに逃げ込むからだ!」
「逃げてきたんじゃないよ。シズちゃんが壊した店のガラス代を払うために、金をおろしに来たんじゃない。むしろ俺に感謝してほしいくらいだ」
「ふざけんな!」
怒りに任せて繰り出された静雄の蹴りが、犯人の腹に綺麗に決まった。
男は声にならない悲鳴を上げると、そのまま気絶する。男の顔には、はっきりと涙が伝っていた。
その様子を見て、臨也は大きなため息をついた。
「あーあ。シズちゃん、また人に怪我させちゃった」
「てめーが盾にしたんだろうが!」
「でも攻撃したのはシズちゃんだよ? 折角、現在進行形の銀行強盗なんていう面白いものに出くわしたのに、なんで君は邪魔をするかなぁ」
大げさに嘆いてみせる臨也を、静雄は問答無用で殴りつける。
それを臨也は軽く避けると、ポケットからナイフを取り出した。臨也の口元に薄い笑みが浮かぶ。
「まぁ、シズちゃんと遊ぶのもそれなりに楽しいからいいけどね」
臨也はナイフを静雄の顔面に向かって投げつけると、そのまま非常口に向かって走り出した。
その動きには、一切の無駄がない。
「待てや! コラ!!」
静雄は飛んできたナイフを手で受け止めると、逃げた臨也を慌てて追いかける。
そうして、臨也と静雄はあっという間に店内から出て行った。
嵐のような二人が去ったことにより、銀行の中には沈黙が落ちる。
店内には、気絶した銀行強盗が2名とポストにはさまれて身動きの取れない銀行強盗が1名。そして床に座りこんだ客と銀行員が数名という異様な光景が広がっていた。
おまけに静雄が暴れたせいで、ありとあらゆるものが壊れて散乱している。
「今のは何だったの…?」
目の前に広がっている惨状に、一人の女性が呆然と呟いた。
しかし、彼女の疑問に答える者は誰もいない。
――すみません。何か本当に…すみません。
唯一事情を把握しているセルティは、心の中で何度も謝ると自らも非常口から脱出した。
先ほどから聞こえていたパトカーのサイレンが、段々とこちらに向かって近づいてきている。
セルティは、出口においてあった愛馬にまたがると、池袋の街を走り出した。
真昼間に突如現れた都市伝説に、何人かの人間は驚いたように振り返る。
そんな人々の視線を避けるように上を見上げると、民家の屋根の上を臨也と静雄が飛んでいるのが見えた。
あれは、臨也が3年かけて習得したパルクールだ。静雄のほうは…恐らく我流だろう。
一種の芸術として完成されたかのようにも見えるパルクールに、それを本能のまま追いかける圧倒的な力。
民家の上を飛び交う二人は、まるでセットであるかのように、しっくりとはまっていた。
セルティは、二人の無駄のない動きに一瞬見蕩れたが、すぐにその姿はみえなくなった。
「…なぁ、コシュタバワー。喧嘩するほど仲がいいって諺を知ってるか? あの二人を見ていると、ちょっと信じてもいいかなって気がしてくるよ」
セルティーはハンドルを握り直すと、アクセルを思い切りふかす。
コシュタバワーは主人に同意するかのように嘶くと、全速力で池袋の街を駆け抜けた。
池袋の街は、今日も日常を謳歌している。
あとがき